2012年10月26日

高校の教科書改訂の概略と影響


ご承知の通り、今年の高校1年生から学習指導要領が改訂され、理数科目の先行実施されております。
 その影響もあり、今年の高1生は理数科目に特に苦労しているような様相です。
 更にはその高1生が高2に上がる年、現在の中3生が高1に上がる来年の4月には、理数科目以外の科目の全面改訂が実施され、それこそ、大変な時期になることは目に見えております。
 そういった内容をお知らせするとともに、それに対応する学習方法などもご案内していきたいと思っています。
 キーワードは、
 完全 脱ゆとり
です。
 まずは右の図表を参考にして頂き、今年改訂があった理数科目を中心にご説明いたします。
① 数学
 今までの数Ⅰ・数A・数Ⅱ・数B・数Ⅲ・数Cの中で、分野統合が行われ、「数C」が無くなりました。それに伴い、今までは数Aで扱っていたものが数Ⅰで出るなど、分野統合の影響が出ています。
 特に高校内容から中学に移行した内容が、カリキュラムギャップによって、あまり深く中学で学習しないまま、高校で理解しているもの前提で次の系列単元に進んでいくという流れが生徒にとって、理解を不十分なまま進んでいる原因の一つと言えます。
 例を挙げますと、中1で不等式の基本が新教科書では出てきます。その流れの中で、高1では1次不等式を学び、その数ヶ月後には2次不等式と連続していくので、いくら移行措置で不等式をざっと学習していたとしても、旧学習指導要領の時間数の中であまり丁寧に取り扱いができなかったと思われるので、不等式・不等号の理解が薄いまま、1次不等式、2次不等式と更に理解不十分なスパイラルに陥ってしまうということになります。
 高校から中学に戻った一覧も次ページに掲載しておきます。
② 理科
 旧課程では、高1では全般的な理科総合を選択し、物理・化学・生物・地学の基礎的なことを学ぶという学校が大半でしたが、新課程においては、物理基礎・化学基礎・生物基礎・地学基礎の4科目から最低2科目以上を選択しなければならないということで、高1年次から物理基礎を選択する学校もあります。
 物理基礎の中では、三角比(sin/cos/tan)の考え方を用いて問題を解きますが、数Ⅰでまだ学習していない時期に違う考え方で解かなくてはならないカリキュラムギャップが生じてしまい、生徒たちの混乱をもたらしています。
 また文系でも2科目の理科必須というのは、非常に大きな重たい改訂となっています。
 ③ 英語
 さて、2013年度(来年)4月から改訂となる英語ですが、良くも悪くも大きな転換期になることは間違えないような気がします。
 文部科学省批判をしても致し方ないのですが、どこを基準にして学習指導要領を改訂しているのかというのが英語の識者から異論が出ているのも事実です。
 また高校の現場でも大きな混乱が起こることも予想できます。
 それは何かと申しますと、
「英語の授業は原則として英語で行う」
ということです。
 既に大半の学校でも挨拶や問いかけなどを英語で行っていることも多いと思いますが、すべてを英語で行うというイメージがわきにくいのも事実です。
 科目名も、
 コミュニケーション英語Ⅰ
 コミュニケーション英語Ⅱ
 コミュニケーション英語Ⅲ
 英語表現Ⅰ
 英語表現Ⅱ
 英語会話
とコミュニケーション・会話を意識させるものになっています。
 生徒たちに英語を使ってコミュニケーション能力を身につけさせたいという試みはよく理解できるのですが、日本人が日本語を介在せずに外国語を理解できるのかどうかという検証をしっかりとなされているのかが少し理解できない気もします。
 本当に英語を使いこなすという観点であれば、また違った取り組みになるのでしょうが、日常会話ができればいいという観点だけで英語を習得するという少しおかしな改訂かもしれません。
 一番困るのは生徒たちです。
 というのも、大学入試の方式がこの改訂で変わるのでしょうか?
 センター試験が、リスニング重視でリスニング200点、筆記50点と今と逆転するのでしょうか。
 難関私立大学の入試が、リスニングとスピーキングで行われるようになるのでしょうか?
 もちろん、大学を目指すためだけに高校はあるのでありませんから、日常会話ができるようになって、高校を卒業するという考え方は一つだと思いますが、その人数と大学入試を希望する比率で言えばどうなのでしょうか。
 旧課程でも、オーラルコミュニケーション(OCⅠ)という授業は必須ですから、全高校生が履修していましたが、実態はどうでしょうか。コミュニケーション主体というよりは、文法(Grammar)の授業をしている上位校や進学校も多いです。
 上位校や進学校では、大学入試に合格することを大前提としたカリキュラムを編成するので、未履修問題などでも発覚したように、入試に直接関係のない科目については、履修させないという隠れた方針になりがちです。
 また旧課程でオーラルコミュニケーションⅡという科目もあるのはありましたが、全国での履修率は10%以下のようです。
 なぜでしょうか。理由は簡単です。大学入試の必須科目になっていないからです。
 さらに上位校では、基礎学力も十分ついている生徒が大半ですから、英語を使った授業は成立すると思いますが、基礎学力がついていない下位校の生徒にとっては、ますます英語嫌いを生み出すきっかけになってしまわないか大きな心配です。
 もちろん、英語能力を向上させることは、これだけの国際社会の中に身をおいているので、当然のことだとは思いますが、もし本当にそうであるならば、日本に住んでいる日本人であれば、まずは「国語力」の強化をもっとする方が英語力の強化にも役立つ気がします。
 国語力の低下が叫ばれて久しいですが、パソコン、携帯・スマホなどでますます文章を自分で書く、漢字を書くという機会も必然的に減っています。
 読書をするにも、紙ベースのものがiPadなどタブレット端末や電子書籍などに取って替わられ、そういった機会も意識しなければ、なかなか機会を得ないという社会になってきています。
 国語力の低下については、アドバンスでも随分と前から非常に大きな問題視をしており、論理エンジンという論理力養成のテキストを導入して、論理的思考力を養成したりしていますが、現在は一部の生徒だけですが、これを全生徒にも広げなくてはという思いをいつももっています。
 少し話は逸れましたが、来年の英語の改訂によって、
「高校の英語の授業がわからへん」
「全然英語わかりません」
「英語嫌いになった」
という生徒が続出しないような対策を色々と考えております。
 特に現在の中3生、新高1生は、新学習指導要領での学習を1年間やっただけで、高校の新課程に放り込まれるわけですから、英単語一つとっても、中学3年間で
 旧課程   900語
 新課程 1,200語
と300語の差があるのですが、1年間だけなので、すべてをカバーすることなく、高1に突入します。
 そこで、またカリキュラムギャップが生まれ、英語がわからなくなるという悪のスパイラルになってしまうのです。
 現在の中3生、高1生の皆さん、本当に来年の英語の改訂(国語も記述式が増加しますが)は、本当に大変です。
 残り半年間で、来年以降の英語の改訂に耐えられるよう、心して、毎日の取り組みをして欲しいと切に願う今日この頃です。